国際癌治療増感研究協会
International Association for the Sensitization of Cancer Treatment

第2回 国際癌治療増感研究協会
協 会 賞

癌治療増感研究の更なる発展を願って設けられたこの賞は、
癌治療増感に関する最近の研究成果が顕著な研究者
または研究グループ代表者に贈られます。

<研究テーマ>
cDNAマイクロアレイを用いた子宮頸癌の
温熱放射線療法によるゲノムの変化

播 磨 洋 子 氏

関西医科大学放射線科

<略歴>

1950年 生まれ。
1976年 関西医科大学卒業。
1980年 関西医科大学放射線科助手
1985年 日本放射線学会専門医認定
1989年 医学博士(関西医科大学)
1995年 関西医科大学放射線科講師
1999年 日本放射線腫瘍学会専門医認定
2000年 関西医科大学放射線科助教授
  現在に至る。

<受賞研究>

cDNAマイクロアレイを用いた子宮頸癌の温熱放射線療法によるゲノムの変化

<研究目的>

我々は温熱療法の子宮頸癌IIIB来に対する生存率への寄与をRandomized trialにより検討し、温熱放射線療法群が放射線単独群よりも抗腫瘍効果、生存率共に良好であった(Int J Hyperthermia,2000, in press)。その機序を調べるために、放射線単独群と温熱放射線療法群に分けて、治療前後の組織にBax染色を施行した結果、温熱放射線療法群では放射線単独群に比べてBaxの染色率が増加し、温熱によりBaxを介したアポト−シスが関与した(Cancer,88:131-137,2000)。この事実は温熱によって遺伝子が動いていることを示しているが、一部の遺伝子の変化しか捉えていない。最近、ゲノム研究が急速に進歩し、ヒトの種々の癌でcDNAマイクロアレイを用いたゲノムの解析が報告されている。そこで今回、我々はマイクロアレイ法によって、温熱によるゲノムのダイナミックな動きを明らかにする計画をした。我々の研究の特色は子宮頸癌のゲノムの発現のみならず、治療前後のゲノムの変化を観察する事で、温熱放射線療法の感受性に関与するダイナミックなゲノムの情報を検討する。類似研究はないものと考えられる。

<研究方法>

我々の施設には今までに放射線治療を施行した子宮頸癌100例のサンプルがあるので研究の対象とする。

  1. 組織採取:当科を受信する子宮頸癌患者を対象とし、初診時にBiopsyを  行い-80℃に速やかに保存する。
  2. mRNA、cDNAの抽出とマイクロアレイによるゲノム解析:癌細胞からmRNAを抽出し、T7 based RNA amplification法を用いてRNAを増幅させる。癌組織から得られたRNAは赤い色素(Cy3)で標識し、正常組織から得られたRNAは緑の蛍光(Cy5)で標識し、2つのプロ−ブを同じスライドガラスに55℃で14時間、コハイブリダイゼ−ションする。赤で示されるシグナルは癌細胞で発現が増加している遺伝子、緑で示されるシグナルは癌細胞で発現が減少している遺伝子、正常細胞でも癌細胞でも同じ程度に発現している遺伝子は黄色いシグナルで示される。
  3. コンピュ−タ解析:アレイスキャナ−(Amersham Pharmacia Biotech社製)にてシグナルを検出してソフトウェア(Array vision, Amersham Pharmacia Biotech社製)によってシグナルを数値化し、各遺伝子のCy5、Cy3の比を求める。Cy5/Cy3>2の遺伝子を正常よりも癌細胞で増加、Cy5/Cy3<0.5の遺伝子を正常よりも癌細胞で減少、2>Cy5/Cy3>0.5を正常と癌細胞で同等であると分類する。実験装置は既に設置されている。

<今までの研究成果>

我々は温熱療法の子宮頸癌IIIB来に対する生存率への寄与をRandomized trialにより検討し、温熱放射線療法群が放射線単独群よりも抗腫瘍効果、生存率共に良好であった(Int J Hyperthermia,2000, in press)。その機序を調べるために、放射線単独群と温熱放射線療法群に分けて、治療前後の組織にBax染色を施行した結果、温熱放射線療法群では放射線単独群に比べてBaxの染色率が増加し、温熱によりBaxを介したアポト−シスが関与した(Cancer,88:131-137,2000)。この事実は温熱によって遺伝子が動いていることを示している。

<これからの研究計画>

従来の研究では一部の遺伝子の変化しか捉えていない。最近、ゲノム研究が急速に進歩し、ヒトの種々の癌でcDNAマイクロアレイを用いたゲノムの解析が報告されている。そこで今回、我々はマイクロアレイ法によって、温熱によるゲノムのダイナミックな動きを明らかにする計画をした。我々の研究の特色は子宮頸癌のゲノムの発現のみならず、治療前後のゲノムの変化を観察する事で、温熱放射線療法の感受性に関与するダイナミックなゲノムの情報を検討する。

<推薦者>

田 中 敬 正 氏
関西医科大学名誉教授

<推薦理由>

播磨氏は平成4年関西医大に帰向してからアポトーシスに興味を持ち、奈良医大大西教授の指導を受け、p53遺伝子を中心としたシグナルトランスダクションの観点から子宮癌の放射線治療の予後因子の研究に取り組んでいる。私は数年間一緒に治療に携わっていたが、学問に熱意があり、研究計画のたて方が厳密、完璧で、私自身大変教えられることが多かった。放射線治療中のBax、Bcl-2の発現が予後と大変きれいに相関していることを示し(Cancer Res Clin Oncol)、温熱療法が放射線効果を増強することを二重盲検法で調べたり(Cancer)、染色体17p(Br J Cancer)、染色体6p(Clin Cancer Res)の遺伝子学的変性についても意欲的に調べ、基礎と臨床を結ぶ架け橋になると確信している。今後放射線治療に分子生物学的手法を導入することによって、この面での学問がさらに進むことを願い、播磨氏を鼓舞する意味で推挙した次第である。

<連絡先>

播 磨 洋 子
〒570-8507
大阪府守口市文園町10-15 関西医科大学放射線科
TEL: 06-6992-1001
FAX: 06-6993-3865

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