国際癌治療増感研究協会
International Association for the Sensitization of Cancer Treatment

第1回国際癌治療増感研究協会

『菅原賞』

『協会賞』

受賞記念講演


平成12年5月28日(日)

徳島大学工業会館


講演要旨

『第1回国際癌治療増感研究協会菅原賞』

放射線による生体損傷の化学的修飾に関する研究

鍵谷 勤

京都大学名誉教授

1979年、放射線による正常(酸素下)細胞および腫瘍(低酸素下)細胞の致死損傷の化学的研究を開始した。チミン水溶液の放射線化学的研究において、酸素共存下および非共存下のいずれにおいても、「チミングリコールの生成量が多い条件で照射するほど細胞の死亡率が高い」という関係を見い出した(1982年)、(昭和61年度科研費補助金研究成果報告書)。

1980年、文部省の対がん十カ年研究に参加して放射線増感剤の分子設計学的研究を分担した。ニトロトリアゾール誘導体が放射線増感活性を示し、毒性も低いことが細胞実験によって明らかにされた(1985年京大医学部阿部光幸研究室)。1986年、中国医学科学院腫瘍研究所の協力研究によって、AK-2123 (サナゾール)の有効性が動物実験によって確められた。

1989年、ペルーのガルシア博士は、子宮頚部の腫瘍にAK-2123水溶液を直注して放射線を照射し、腫瘍を経日的に観察して報告し、発展途上国のためにAK-2123を提供することを求めてきた。日本放射線増感研究協会(現国際癌治療増感研究協会)は、AK-2123を無料で提供して行う国際共同研究を開始することを Radiosensitization Newsletter で広く知らせた(1989年4月)。この10年間に、7ヶ国、16グループによる基礎研究および12ヶ国、27グループによる 12 種類の癌治療の 臨床研究結果が報告されている。

1995年、この研究結果が国際原子力機関に注目され、6ヶ国 による 第III期子宮頚部癌のAK-2123(1g、週3回静注、合計15g)増感放射線治療の国際共同臨床研究(大塚製薬工場製剤研究所協力)が実施された(1996年1月-1999年1月)。

実験群と対照群の各200名を比較し、重篤な副作用もなく、増感効果が確められた。現在、生存率を追跡中である(2002年1月まで)。国内では、(社保)船橋中央病院と国立南和歌山病院で臨床研究が行われている。

因みに、AK-2123が CPA、ADR、MMC、cDDP等の抗癌剤の作用を増感することが白血病や肺癌のマウスで発見された(モスクワ1991年)。また、少量を継続投与すると、B-16メラノーマ担持マウスの腫瘍増殖、肺転移率および肺転移結節の生成が抑制されることが見い出された(モスクワ1996年)。

さらに、少量の AK-2123 をマウスに継続投与すると、マクロファージ、NK 細胞、Tリンパ球が活性化されること、およびボランテイアに継続投与すると、IFN-α、TNF、IL-1の活性化が観測されている(1998年トムスク)。

他方、1995年、水溶性ビタミンE誘導体(CCI(株)開発)の放射線防護作用の国際共同研究を開始した。細胞実験(1996年)および動物実験(1998年)で防護効果が確認され(産業医科大学)、胎児の奇形や死亡のの防護効果が明らかになった(鈴鹿医療科学大学1999年)。また、DNA損傷やイースト損傷の防護効果(ボンベイ)および動物の骨髄損傷の防護効果(マニパル)が認められた。大阪大学と放射線医学研究所でも研究されつつあり、水溶性ビタミンEの放射線防護剤としての将来が期待される。

『第1回国際癌治療増感研究協会協会賞』

野性型p53遺伝子導入による
細胞温熱感受性の増感

松本 英樹

福井医科大学放射線基礎医学教室

【目的】

p53遺伝子欠損マウス細胞へ野生型または変異型p53遺伝子を導入し、p53遺伝子の細胞温熱感受性への関与とp53遺伝子導入細胞の温熱による細胞死のしくみを検討した。

【材料と方法】

  1. p53遺伝子導入細胞の作製:野生型p53遺伝子を持つプラスミドとしてpCMVNc9を、変異型p53遺伝子(p53val135)を持つプラスミドとしてpLTRp53cGを用いた(これらのプラスミドはWeizmann Institute of ScienceのM. Oren教授の御厚意により供与された)。それぞれのプラスミドをp53遺伝子欠損マウス由来線維芽細胞(MT158-8細胞)へ電気穿孔法により導入し、p53発現細胞をウェスタンブロット法にて選択し、それぞれ2株ずつのp53遺伝子導入細胞を作製した(MT158-8細胞は京都大学放射線生物研究センターの丹羽教授の御厚意により供与された)。
  2. 細胞の温熱感受性の解析:温熱処理(44℃)後、37℃で一週間培養し、コロニー形成法により生存率を算出した。
  3. 温熱処理後の細胞周期変化の解析:温熱処理(44℃)後、各株について経時的に細胞周期の変化をフローサイトメトリーにより解析した。
  4. 温熱処理後のアポトーシス誘導の検討:アガロースゲル電気泳動によるDNA断片化の解析並びにHoechst染色法により行った。

【結果および考察】

  1. 各細胞株の温熱感受性(44℃,D10)は、コントロールベクター導入株が28.1min、野生型p53遺伝子導入株が17.9min、そして変異型p53遺伝子導入株が44.2minであり、野生型p53遺伝子の導入により温熱感受性が増感された。
  2. 野生型p53遺伝子導入株において温熱処理後12〜24時間目にG1-arrestが観察されたが、コントロールベクター導入株および変異型p53遺伝子導入株では観察されなかった。
  3. 野生型p53遺伝子導入株およびコントロールベクター導入株において温熱処理後12〜24時間目にアポトーシスの指標であるDNAのヌクレオソームサイズの断片化が顕著に観察されたが、変異型p53遺伝子導入株では観察されなかった。
  4. 野生型p53遺伝子導入株およびコントロールベクター導入株において温熱処理後12〜24時間目にアポトーシス細胞が蛍光染色法により顕著に観察されたが、変異型p53遺伝子導入株では殆ど観察されなかった。

以上の結果より、野生型p53遺伝子の導入による温熱感受性の増感は温熱によるp53依存性アポトーシスの誘導促進と考えられる。また、変異型p53遺伝子の導入により温熱誘導アポトーシスが抑制されることが示された。従って、癌温熱療法の先行指標としてp53遺伝子のstatusの検索が有効であることが示唆された。

最後になりましたが、第1回国際癌治療増感研究協会協会賞という過分な栄誉に与り、心より感謝の意を表します。

授賞式

各賞受賞者

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