6th Annual Meeting on the Sensitization of Cancer Treatment
ミレニアムシンポジウム-1
低酸素−がん細胞のサバイバル戦略−

低酸素と転写因子

十 川 和 博

東北大学大学院理学研究科

ハイポキシアでは非常にバラエティーに富んだ遺伝子が活性化され、酸素の恒常性を維持しようとする。赤血球の産生を促進し、全身に酸素の供給量を増加させるエリスロポエチン、血管新生を促し、局所的な酸素供給を増加させるVEGFとその受容体、無酸素状態でATPを合成し細胞に耐性を与える、解糖系の諸酵素の遺伝子などである。これらの遺伝子の転写活性化は、Hypoxia Inducible Factor-1 (HIF-1) と名づけられた転写因子が中心となって行われる。HIF-1はHIF-1αとHIF-1βからなるヘテロダイマーであり、HIF-1β (Arntともよばれている)はダイオキシン等の外来異物の代謝に関与している、Ahリセプターともヘテロダイマーを形成し、薬物代謝酵素遺伝子群の転写調節に機能していることが、既に判明している。これらのことから、HIF-1αがハイポキシアで活性化される因子と考えられ、詳しく調べられた。最近、我々はHIF-1αと一次構造が類似の因子HLF (HIF-1α like Factor) をクローニングした。HLFは(HIF-2α, EPAS 1とも名づけられている)HIF-1αと生化学的性質が類似しており、ともに転写の活性化因子であった。HIF-1α, HLF, Arnt, Ahリセプターはすべて、アミノ末端側にベーシック ヘリックス−ループ−ヘリックス (bHLH)ドメインとPASドメインをもち、ベーシックドメインはDNAとの結合に必要なドメインでHLHとPASドメインはダイマー形成に必要である。HIF-1αとHLFの転写活性化に関与する領域を調べたところ、分子の中央付近とC末端部の、二箇所にそれぞれ存在することが分かった。中央部の転写活性化領域はがん抑制遺伝子である、VHL転写産物によって分解される領域と重なっていた。C末端部の転写活性化領域は、転写のコアクチベーターであるCBP/p300と直接結合した。これらの結果をもとに、ハイポキシアで活性化される遺伝子の転写のメカニズムを議論したい。