ニトロ 5-デアザフラビン誘導体による
8-ヒドロキシグアノシン生成における放射線増感効果
三方裕司*、○岸上真紀*、矢野重信*、
川本哲治**、池内義弘**、米田文郎**、
母里知之***、村山千恵子***
*奈良女子大学理学部
**京都大学薬学部
***東海大学医学部
【研究目的】
固形癌中に存在する低酸素性細胞に対する放射線増感剤として、芳香族複素環にニトロ基を導入したメトロニダゾールやエタニダゾールなどがよく知られている。本研究では新規な放射線増感剤として、酸化還元補酵素5-デアザフラビン骨格のC6、7、8、9位にニトロ基を導入した一連のニトロ
5-デアザフラビン誘導体(NO2dFls)を設計・合成し、DNA塩基酸化における放射線増感効果を検討した。

【実験・結果】
1.チミン-5,6-グリコール(Thy glycol)生成促進作用
チミン(Thy)水溶液に化合物(6-及び8-ニトロ-5-デアザフラン、メトロニダゾール)の存在下N2O置換下において放射線(134Cs
g線)照射を行い、UV検出器を備えたHPLCによりThy glycolの生成量を調べた。その結果、6-及び8-ニトロ-5-デアザフラビンはメトロニダゾールよりも大きな放射線増感効果を示すことが判明した。

2. 8-ヒドロキシ-2'-デオキシグアノシン(8-oxo-dGuo)生成促進作用
dGuo水溶液に化合物(ニトロ-5-デアザフラビン誘導体、メトロニダゾール)の存在下N2O及びN2置換下で同様に放射線照射を行い、電気化学(EC)検出器を備えたHPL
Cにより8-oxo-dGuoの生成量を調べた。

N2O 置換下では、6-、8-及び9-ニトロ-5-デアザフラビン誘導体においてコントロールの4〜5倍の8-oxodGuoの生成がみられた。さらに、N2置換下においても、6-及び8-ニトロ-5-デアザフラビン誘導体ではコントロールの4〜8倍の8-oxo-dGuoが生成することが判明した。本反応において、メトロニダゾールは放射線防御効果を示すことが判明した。
CadetらはdGuo水溶液に放射線を照射すると、
2,6-diamino-4-hydroxy-5-formamido-pyrimidine (FapyGua)が生成することを報告している1)。そこで、本反応における8-oxo-dGuoとFapyGuaの生成量の関係2)につて検討した。NO2dFlの濃度を変えて一定量の放射線を照射した場合に、NO2dFlの濃度が大きくなるに従って8-oxo-dGuoの生成量が増加し、FapyGuaの生成量が減少していくことが明らかとなった。

【結論】
ニトロ-5-デアザフラビン誘導体には、メトロニダゾールよりも大きなThy glycol生成促進作用が認められ、またニトロイミダゾール誘導体では報告されていない8-oxodGuo生成促進作用も示すことが明らかとなった。8-oxodGuo生成においても、メトロニダゾールをはるかにしのぐ増感作用を示した。
【参考文献】
1) Berger, M.; Cadet, J. Z. Natureforsch. 1985, 40b, 1519-1531.
2) Steenken, S. Chemical Reviews, 1989, 89, 503-520.