放射線感受性修飾における p42/p44
MAPK と
そのシグナル伝達経路の役割
秋元哲夫、三橋紀夫、石川 仁、桜井英幸、新部英男
群馬大学医学部放射線医学教室
【研究目的】
肺癌、食道癌、乳癌などで上皮細胞増殖因子受容体(以下 EGFR)や c-erbB-2 などの増殖因子受容体の過剰発現が予後不良因子として報告されているが、近年の研究の成果でこれらの受容体の過剰発現を呈する腫瘍は抗癌剤や放射線に対して抵抗性があることが予後不良の一因であることが明らかにされつつある。放射線感受性との関連では、放射線感受性の異なるマウス上皮性腫瘍の
EGFR の発現とその放射線感受性に正の相関があり、EGFR 高発現の腫瘍の EGFR に照射後自己リン酸化が認められたこと(秋元、ミラス他、AACR
proceeding, 1999)、また Schmidt-Ullrich らは A431 細胞を用いて照射が EGFR
とその下流のシグナル伝達経路を活性化させることが、EGFR 高発現の腫瘍の放射線抵抗性の一因であると報告している。これらの結果は、増殖因子受容体とそのシグナル伝達経路の阻害が放射線感受性に影響を与えることを示すものである。そこで本研究ではチロシンキナーゼ型増殖因子受容体の伝達経路の
Key Molecule である p42/p44 mitogen-activated protein kinase(以下
MAPK)の活性化に与える放射線の影響とチロシンキナーゼ阻害剤である genistein の放射線感受性修飾作用について検討した。p42/p44
MAPK の発現の変化についても検討した。
【方法】
本研究には EGFR を発言するヒト食道扁平上皮癌細胞株 TE-1 と TE-2 を使用した。これらの細胞の
p53 遺伝子の変異は PCR-SSCP 法で検索し、放射線感受性は clonogenic assay にて決定した。EGFR、phosphorylated
p42/p44 MAPK、p42 ERK1、cyclin D1 および p27 KIP1 の発現はウエスタンブロットで検討した。これら蛋白の照射および
genistein 併用による発現の変化は、血清に含まれる他の増殖因子の影響を除去するため細胞を無血清培養液で培養し、genistein
も DMSO で溶解後(最終濃度は 0.05 % 以下)無血清培養液で希釈して検討した。genistein は
10、30、50μM の濃度で照射前に 24 時間接触させた。
【結果】
これらの細胞の p53 遺伝子は TE-1 が変異型、TE-2 が野生型であった。genistein の併用で両細胞株ともに増感作用が認められ、その効果は
genistein の濃度が 30μM および 50μM で相乗効果であった。10μM では相乗効果は認められなかった。p42/p44
MAPK は 2 Gy、5 Gy の照射単独では照射後早期に活性の増強がみられ、cyclin D1 もその変化に呼応して発現が増加した(p42
ERK1 の発現は照射および genistein 併用で変化はみられなかった)。genistein との併用で
p42/p44 MAPK の活性化は阻害され、それに伴って cyclin D1 の発現の減弱が認められた。p27
KIP1 の発現は cyclin D1 と同様であった。相乗効果の認められなかった genistein 10μM
の併用では、照射単独に比較して p42/p44 MAPK の活性の軽度低下が認められたが、cyclin D1 の発現低下はみられなかった。なお、genistein
単独では今回用いた 10、30、50μM の濃度では p42/p44 MAPK、cyclin D1 および p27
KIP1 ともにほとんど変化は認められなかった。
【結論】
本研究で、genistein の併用で p53 のステータスの異なる細胞株両方とも放射線の増感作用が認められ、その機序として
p42/p44 MAPK の活性化の阻害による可能性が示唆された。これは、増殖因子受容体とそのシグナル伝達経路の修飾・阻害が放射線感受性に大きな影響を与えることを示すものである。